上海市内を歩いていると、多くの女性が欧米の有名ブランドの鞄を持ち、男性はスイス製の高級時計を身に付けている場面を目にする。一見しただけでは真贋はわからないが、他の所持品や服装の様子、上海市民の所得平均等から推測すると恐らく模倣品であると思われる。模倣品の製造・販売は商標権、意匠権の侵害であるが、商標権、意匠権を含む知的財産権に関する被害は中国に進出する日本企業にとって大きな問題である。模倣業者による模倣品の製造、販売をはじめとし、競合他社によるアイデアの盗用や意匠の冒認登録、正規取引先が契約数量以上に製品を製造し、非正規経路で市場に販売、また、契約終了後も製品製造を続け、商標を横取りするなど、問題は多岐に渡っている。
特許庁の「2014年度模倣被害調査報告書」に依れば、日本企業が海外において模倣被害を受けた国・地域としては中国での被害率が最も高く、過去も同様に高水準であることが分かる。模倣品を放置することによって、企業は信用低下やブランド価値の低下、市場縮小等の不利益を被ることになる。企業としては当然何らかの対策を講じるはずであるが、日本企業の場合約50%の企業が対策を実施しているに過ぎない。この原因の一つとして、日本では知的財産権は特許庁の所管であるが、中国では知的財産権を所管する中央政府機関が2機関あり、事例によっては進出先の地方出先機関と交渉しなければならず、日本企業にとっては対応が困難であることが挙げられる。また、民事・刑事訴訟の司法による対応も高額な弁護士費用が必要なことなど、企業にとっては実施が難しい点も多い。
先日、上海市内の企業経営コンサルタント会社担当者と話をする機会があったが、商標権の侵害などは日本人の感覚からは信じられないような悪質さであり、今後中国への進出を検討する日本企業は中国での知的財産権リスクについては周到に準備するべきであるとの説明を受けた。信頼できるビジネスバートナーや代理事務所を発掘することも模倣品製造などの知的財産権の侵害を予防する上で重要な要素であるが、中小企業の場合、先ずはどこに相談すれば良いのかわからないというケースも多いとのことであった。
現在、日本企業の中国への進出は難しい状況であるが、駐在員事務所としては、照会や相談があった場合に備え、今後現地法律事務所等と関係を構築するなど、必要な情報を提供できるよう努めていく。